東京高等裁判所 平成10年(ネ)4640号 判決 1999年9月16日
控訴人
株式会社加藤製作所
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
補佐人弁理士
【B】
被控訴人
株式会社タダノ
代表者代表取締役
【C】
訴訟代理人弁護士
吉原省三
同
小松勉
同
杉本操
同
三輪拓也
補佐人弁理士
【D】
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 控訴人が求める裁判
「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金一一億八九七六万円及びこれに対する平成七年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言
第二 当事者らの主張
左記のとおり付加するほか、原判決摘示(三頁六行ないし八六頁六行)のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決別紙物件目録一の第2ないし第6図、第9図の各「6」を、いずれも「9」に改める。)。
一 当審における控訴人の主張の要点
原判決は、本件発明の要件である二重樋状案内部材は強度保持機能を有するような構成のものを含まない旨説示したうえ、被告物件の二重筒状体は筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するから、被告物件の構成Aは本件発明の構成Aを充足しない旨判断しているが、誤りである。
1 まず、本件明細書には、「アウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく」(一〇欄六行ないし一一行。以下「強度保持機能に関する本件明細書の記載」という。)と記載されており、この記載が、本件発明の要件である二重樋状案内部材に、従来の水平ビーム案内部材のように単独で極圧Rを支承する機能を有するものが含まれないことを意味することは明らかである。しかし、この記載が、直ちに、他の部材と協働して極圧Rを支承する機能を有するものが本件発明の要件である二重樋状案内部材に該当しないことまでを意味するものでないことも明らかである。
次に、本件発明は、
<1> 水平ビームを縮めたときに、伸縮支脚が車幅内に納まるようにすること
<2> 水平ビームをより長く伸ばすため、水平ビームを伸ばしたときの極圧Rを車幅端部位置で支承するようにすること
<3> 水平ビームの案内部材を軽量化することによって、アウトリガ全体を軽量化すること
を解決すべき技術的課題とするものであるが、その特許請求の範囲記載の構成を採用する限り、二重樋状案内部材と筒状アームとを一体に結合しても別体として構成しても、右<1>ないし<3>の目的を達成しうるものであって、得られる作用効果において差異が生ずることはない。したがって、本件発明の要件である二重樋状案内部材には、他の部材と協働して極圧Rを支承する機能を有するもの(原判決のいう「筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のもの」)も含まれると解すべきである。
この点について、被控訴人は、強度保持機能に関する本件明細書の記載は、水平ビームの案内部材が他の部材と協働して極圧Rを支承する機能を有する従来例を改良した実施例の説明としてなされているのであるから、本件発明の要件である二重樋状案内部材は他の部材と協働して極圧Rを支承する機能を有するものも含まないと解さなければならない旨主張するが、被控訴人が指摘する従来例は、水平ビームの案内部材が他の部材と協働して極圧Qを支承する機能を有するものとして記載されているのであるから、被控訴人の右主張は失当である。
原判決は、控訴人が無効審判事件において水平ビーム頂壁からの極圧Rは二重樋状案内部材を介することなく車体フレームへ伝達されることを明確に述べている旨認定している。しかしながら、無効審判事件における控訴人の右主張は、極圧Rを直接受ける部材が二重樋状案内部材ではなく、筒状アームであることをいうものにすぎないから、原判決の右認定は失当である。
原判決は、控訴人が無効審判事件において本件明細書には頂部の開放しないものが二重樋状案内部材に当たる旨の記載は全くないことを明確に述べている旨をも認定している。しかしながら、無効審判事件における控訴人の右主張は、二重樋状案内部材それ自体の形状に関するものであって、二重樋状案内部材と筒状アームとが一体に結合された形状に関するものではないから、原判決の右認定も失当である。
2 一方、被告物件の二重筒状体は、肉薄であるうえ蓋体の一部が切り欠かれているから、単独では極圧Rを支承する機能を有しておらず、その上に溶接固着されているサポートと協働して、初めて、極圧Rを支承する機能を有するものである。そうすると、被告物件の二重筒状体が、本件発明の要件である二重樋状案内部材と全く同一の作用を行う部材であることは明らかであるから、被告物件の構成Aは本件発明の構成Aを充足しないとした原判決の判断は誤りである。
二 被控訴人の反論の要点
1 控訴人は、強度保持機能に関する本件明細書の記載は、本件発明の要件である二重樋状案内部材が単独で極圧Rを支承する機能を有するものを含まないことを意味するにとどまり、本件発明の要件である二重樋状案内部材は他の部材と協働して極圧Rを支承する機能を有するものをも含む旨主張する。
しかしながら、強度保持機能に関する本件明細書の記載は、水平ビームの案内部材(基筒あるいは摺動筒)が他の部材(補強材)と協働して極圧Rを支承する機能を有する従来例(例えば、昭和五〇年実用新案出願公開第二三八一〇号公報、昭和四五年実用新案出願公告第三〇四八三号公報)を改良した実施例の説明としてなされているのであるから、本件発明の要件である二重樋状案内部材は、単独で極圧Rを支承する機能を有するものが排除されることは当然として、他の部材と協働して極圧Rを支承する機能を有するものも同様に排除されていると解さなければならない。控訴人の右主張は失当であり、このことは、本件発明の原原出願である昭和五二年特許願第一〇六七九九号の明細書に、「アウトリガ使用時に二重案内樋の中央隔壁板にストレンゲージを取付けて応力発生状況を調べたが応力零であった」(乙第二号証・昭和五四年特許出願公開第四二七一九号公報三頁右上欄九行ないし一一行)と記載されていることからも明らかである。
この点について、控訴人は、本件発明の目的は前記一の1<1>ないし<3>であるとしたうえ、その特許請求の範囲記載の構成を採用する以上、二重樋状案内部材と筒状アームとを一体に結合しても別体として構成しても、得られる作用効果において差異が生ずることはなく、右<1>ないし<3>の目的を達成しうる旨主張する。
しかしながら、本件明細書の記載(公報四欄二五行ないし二九行、五欄一二行ないし一五行、一〇欄六行ないし二〇行、一一欄二〇行ないし二二行)に照らせば、本件発明の最大の目的が水平ビームの案内部材の軽量化にあることは明らかであり、そのためにこそ本件発明は、二重樋状案内部材がいかなる意味においても極圧Rを支承する機能を有しない構成を採用したのであるから、控訴人の右主張は失当である。
控訴人は、本件明細書には頂部の開放しないものが二重樋状案内部材に当たる旨の記載はない旨の無効審判事件における控訴人の主張は、二重樋状案内部材それ自体の形状に関するものであって、二重樋状案内部材と筒状アームとが一体に結合された形状に関するものではない旨主張する。
しかしながら、「樋状」の案内部材という以上、その頂部が開放されていなければならないことは当然であるのに、二重樋状案内部材と筒状アームとを一体に結合すれば、二重案内部材の頂部は閉塞されざるを得ない。
そのような形状の二重案内部材はもはや「樋状」といえないから、控訴人の右主張は、「樋状」という用語の普通の意味を完全に無視するものであって、明らかに失当である。
2 控訴人は、被告物件の二重筒状体は単独では極圧Rを支承する機能を有しておらず、その上に溶接固着されているサポートと協働して初めて極圧Rを支承する機能を有するものである旨主張する。
しかしながら、被告物件の水平ビームの上面が、二重筒状体の上部を構成する蓋体の下面に接しており、サポートには接していない以上、原判決のいうように「水平ビームからの極圧Rは、まず一度すべて二重筒状体の一部を構成する水平板(蓋体)に伝えられてから、さらにサポートを経て車体フレームに伝えられる」(一〇八頁六行ないし八行)のであるから、被告物件の二重筒状体は強度保持機能を有するとした原判決の説示が正当であることは明らかである。この点に関する控訴人の主張は、原判決が被告物件の二重筒状体が単独で極圧Rを支承する機能を有する旨を説示していることを前提とするものであるが、原判決にはそのような説示は存在しない。
理由
一 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する請求は、全部棄却すべきものと判断する。その理由は、以下に加えるほかは、原判決説示(八六頁八行ないし一〇九頁六行)のとおりであるから、これを引用する。
二 控訴人は、本件発明の目的が、
<1> 水平ビームを縮めたときに、伸縮支脚が車幅内に納まるようにすること
<2> 水平ビームをより長く伸ばすため、水平ビームを伸ばしたときの極圧Rを車幅端部位置で支承するようにすること
<3> 水平ビームの案内部材を軽量化することによって、アウトリガ全体を軽量化すること
にあるとしたうえ、その特許請求の範囲記載の構成を採用する以上、二重樋状案内部材と筒状アームとを一体に結合しても別体として構成しても、得られる作用効果において差異が生ずることはなく、右<1>ないし<3>の目的を達成しうる旨主張する。確かに、右<1>および<2>については、二重樋状案内部材と筒状アームとを一体に結合しても同様に達成することが可能であると考えることができる。しかしながら、<3>については、二重樋状案内部材と筒状アームとを一体に結合しても別体として構成しても得られる作用効果において差異が生じないと認めることはできない。その理由は左記のとおりである。
甲第二号証(特許公報)によれば、本件発明の明細書には、本件発明の作用は「筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けられた(中略)水平ビーム頂壁の案内面付補強板により、筒状アーム端部の曲げ剛性が確保され、水平ビーム伸長時の負荷による案内アーム端部の下向極圧が、車巾一杯に延びる側板下部の補強板により支承される」(六欄三七行ないし四三行)ことと記載されていることが認められる。すなわち、本件発明においては、「水平ビーム伸長時の負荷による案内アーム端部の下向極圧」、すなわち極圧Rは、専ら、特許請求の範囲に記載されている「筒状アームの基部を(中略)車体フレームの側壁部に固着」し、この「筒状アームの(中略)底板端部に、(中略)外開き切欠を形成」し、この「外開き切欠まわりの側板下部に、(中略)水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設け」る構成によって支承されるのであって、二重樋状案内部材は極圧Rの支承に関与しないものと解するのが相当である。そして、このことは、強度保持機能についてなされている本件明細書の記載、すなわち、「アウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の振れ止め機能等を持たせるだけの軽量に構成でき」(本件明細書一〇欄六行ないし一三行)、あるいは、本件発明の原原出願である昭和五二年特許願第一〇六七九九号明細書の「アウトリガ使用時に二重案内樋の中央隔壁板にストレンゲージを取付けて応力発生状況を調べたが応力零であった」(乙第二号証の三頁右上欄九行ないし一一行)との記載によっても、裏付けることができる。
したがって、本件発明における二重樋状案内部材は、「水平ビームの案内機能」あるいは「支持部材の振れ止め機能」のみを果たす程度の小さな強度で足りるから、それに応じただけの二重樋状案内部材の軽量化が可能となることが明らかであり、本件発明は、この程度まで小さな強度の二重樋状案内部材を採用することを通じて、アウトリガ全体の軽量化を実現しようとしたものというべきである。
ところが、二重樋状案内部材を筒状アームと一体に結合してしまうと、二重樋状案内部材も、筒状アームと協働してではあれ、極圧Rの支承に関与せざるをえないことは技術的に明らかであるから、二重樋状案内部材は、前記のように単に「水平ビームの案内機能」あるいは「支持部材の振れ止め機能」を果たすだけという程度の小さな強度では足りず、より大きい強度を必要とすることは当然である。このような二重樋状案内部材について、極圧Rの支承に関与しない場合と同等の軽量化を図ることが不可能なことは、自明である。
以上のとおりであるから、本件発明の目的<3>が達成されるためには、二重樋状案内部材が、筒状アームと一体に結合されてこれと協働してであれ、極圧Rの支承に関与することのないように構成される必要があると解するのが相当であり、この意味において、「本件発明の要件である二重樋状案内部材は筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものを含まない」とした原判決の説示には、十分な合理性があるというべきである。
三 しかるに、被告物件の水平ビームの案内部材は二重「筒状体」であるから、原判決が説示するとおり、「水平ビームからの極圧Rは、まず一度すべて二重筒状体の一部を構成する水平板(蓋体)に伝えられてから、さらに、サポートを経て車体フレームに伝えられる」(一〇八頁六行ないし八行)ものである。したがって、被告物件においては、二重筒状体が極圧Rの支承に関与していることは明らかであり(現に、乙第一〇号証によれば、被告物件の二重筒状体の側板主体には、極圧R(および極圧Q)による相当の応力(主として引張応力)が発生していることが認められる。)、その結果、二重筒状体について極圧Rの支承に関与しない場合と同等の軽量化を図ることは不可能となると考えられる。
四 以上のとおりであるから、被告物件の要件Aは本件発明の要件Aを充足しないとした原判決の認定判断は正当であって、原判決には控訴人主張のような誤りは存在しない。
五 以上のとおり、控訴人の被控訴人に対する請求を全部棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がない。そこでこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一一年七月一五日)
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)